2014年02月15日

抜けないんです


腹上死、あるんです(続き)

【承前】 ソノ最中に抜けなくなった話、いや、腹上死の続きです。そう、一般的には腹上死。これ医学的には何というのかといえば、そのものズバリの「性交死」です。いや、ホント、そのものズバリで単刀直入です。死亡の形態は「性交死」ですが、死因としては心筋梗塞、脳梗塞、有り体にいえば心臓発作が圧倒的。多くは自分より若い年令の相手に、通常以上に性的に興奮して心臓や脳に過度な負担がかかるのでしょう。だから、夫婦のセックスで腹上死というのはあまり聞きません。そういえばコトの最中に死ぬ腹上死、身体が上でも下でも、あるいはヨコでも、みんな「腹上死」です。
 腹上死といえば死ぬのは、女の上になっている男の方と相場は決まってます。ところが、稀に女性が死ぬコトもあるんです。ある夜、救急車で女性が運ばれました。前回の女性は浴衣を着ていましたが、今回は素っ裸に救急隊の薄い毛布を掛けただけ。トシの頃は40代の前半か、シャープな頤(おとがい)と首筋から下は意外にも肉感的な姿態。一緒に救急車に乗ってきたのは30才を少し超えたばかりの男性。ビジネスバッグを抱えた真面目なサラリーマン風だ。
 運ばれた女性はストレッチャーの上で人工呼吸をしながら運ばれたが、いわゆる着死状態。医師の診察の前にすでに呼吸停止、救急担当の医師が心停止の確認をして、この時点で警察に「変死体」として連絡をします。付き添ってきた男性に「○時×分、死亡を確認しました。ご家族にご連絡をお願いします」。当の男性は顔面蒼白、オロオロどころか、為す術もなくボウセン、処置室の前で「為す術もなく」である。
 病院で死亡が確認された変死体、関係者、この場合は当の男性やホテルの従業員などが警察で事情聴取がされます。当然ながら死に至った経過の説明を求められますし、男性にはお互いの関係も確認します。普通の腹上死は男性が亡くなって、事情を聴取されるのは女性ですが、実は腹上死で病院に運ばれるケースは稀なことです。多くの場合、蒲団なりベッドの上で亡くなっているので、警察が現場(ホテル)に臨場して事故か事件かを調べます。病院で亡くなるのは着死のケースです。救急隊員はストレッチャーの上で心臓マッサージをしながら到着しますが、すでに心停止の状態で、到着後に医師によって死亡を確認、警察に連絡します。
 警察では鑑識課が遺体を調べます。腹上死では外傷もありませんし、同伴者(今回の場合は男性)への事情聴取に疑問がなければ、監察医が来院し、剖検室で最終的な判断をします。事件性がないことが確認できれば遺体はご遺族に引き渡されますが、解剖が必要な場合には東京監察医務院に運ばれて解剖となります。話は逸れますが、病院で解剖を行なうのは病理医です。病理医は臨床医師と違って患者を直接診察することはありませんが、病理医や麻酔医がいないと手術はできないんですね。例えば術中に癌患部を切除、患部周辺の切片を病理検査室に送って、術中に病理的な検査をします。人気のテレビドラマ「Doctor-X」には地味な存在の病理医は出てきませんが、麻酔医は毎回出てきますね。麻酔医は術中の患者の全てをコントロールしており、麻酔医が術前に当該の患者が手術ができる状態にないと判断すれば、外科医は執刀ができません。案外知らない人がいるのですが、病理医も麻酔医も「医師」であって「技師」ではありません。
 さて、腹上死した女性のご主人が遺体を引き取りに病院に到着しました。女性と同年代でしょうか、40代半ばのエリートビジネスマンという感じです。遺体は地下1階の霊安室。これの奥には剖検室があって、そこから霊安室に移されています。事件性がないので、警察官から「死に至る」簡単な説明があり、隣の控え室には「最後に立ち会った」男性がいます。お互いに「覚悟」していたとはいえ、相当に複雑な心境でしょう。
 私の友人に、友人の奥さんとコトを致している時に、当の友人が帰宅して“三竦み”となった、笑えない話がありますが、これはまだ生きていればこそのこと。コトの最中に亡くなってしまった場合、残された方はお互いに声のかけようがありませんよね。怒りを込めて詰問すればいいのでしょうか。遺族にすれば「最後の様子」も聞きたいところですが、これも無理でしょう。まあ、一緒にいた男性も不運といえば不運です。頭を下げ続けるしかありません。あるいは、開き直って「強引に誘われて、断り切れずに…」とでも。
 でも、霊安室は気味の悪いくらいの静寂です。お互いに声もなく、遺体は霊安室から駐車場で待つ遺体搬送車に。男性は頭を下げて搬送車を見送ります。もちろん同乗するのはご主人ですが、通夜はどうするか、など余計な心配をしてしまいます。密葬になるのでしょうが、年齢的からすれば両親も健在だろうし、子供がいれば、「母の死に方」を説明しなければならない、何とも辛い「その後」が待ってます。。
 会社の女性上司と若い部下の男性。一回り年下とのセックス、女性にしてみれば会社の同僚という手近なところでのストレス解消、精神的に解放され、肉体的にも甘美に充足する夜の愉しみ。危険な火遊びが招いた腹上死、あまりにも代償の大きな死の現実でした。
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日乗俳句


腹上死、あるんです

 前回はラブホテルの浴室で転倒した女性の情けない救急処置のことを書きました。今回は腹上死です。新宿の特殊浴場で腹上死した東宮侍従の話は有名です。東官の侍従という立場上、マスコミでもずいぶん騒がれました。フクジョウシなんて、ホントにそんなコトがあるのか? というギモン。心労による影響があるのかも知れません。
 実は、私自身が腹上死の友人の現場に居合わせたことがあります。電話で呼ばれて現場に駆けつけた時には警察の現場検証も終わりつつあったのですが、彼はコトのあった布団の上で眠っていました。当の女性は半狂乱で泣いています。この女性は、今はなくなった有楽町のN劇場の踊り子さんでした。高田馬場で同棲していた、腹上死した男性が私の後輩でした。「二人でお金を貯めてインドに行こうっていってたのに…」。彼女はそう繰り返して泣いていました。同棲していた彼らの部屋の下が、N劇場を引退したお姉さんの営む小料理屋。通夜の後での精進落とし、皆さん声もなく日本酒を呷りました。
 腹上死といえば、死ぬのは大体は男ですよね。これはある先輩に聞いた話ですが、駅の脇の便所(そう、トイレではなく便所の時代の話です)で目合(まぐあ)っていた男女。イイところに到達した時に、汽笛がピイーッ!! これに驚いた女性のアソコが痙攣、男のモノが抜けなくなってしまったのだと。ま、この手の話はよく聞きますが、場所が屋外だと困まりますよね。男は便所の戸板をドンドン。といっても田舎の駅のこと、列車の時間にならなければ人なんかやってこない。逆にドンドンに気付く人がいるということは、外に出れば列車待ちの人々の目に晒される事態に。
 抜けなければ困るが、このまま外に出るのも…。「少しガマンしていれば抜けるかも」と思ったが、「締め付けは強まっているようだ」。ドンドンの音に反応があった。たぶん、気付いてくれて嬉しいような恥ずかしいような複雑な心持ちだったでしょうね。便所の中から「救急車呼んで下さい」。「どうした、ハライタか」。まさか、下半身をモロ出しで女を抱えてイタしている最中に抜けなくなったとはいえないでしょう。結局は駆けつけた救急車まで消防隊員と便所の周りに集まった人たちに担がれながら運ばれたと、なんとも情けない姿である。「水かければ抜けるゾ」と声がかかったそうだが、犬じゃあるまいし、先輩はそう思った。と、この話を聞いた私は「この話、先輩のことじゃないの」と思った。この先輩、酒も強かったが、女にも強かった。昼の日中に会社を抜けて湯島界隈のホテルへ。社員曰く「戻ってくるとセッケンの匂いがするんだよね」。「抜けなくなった」も、あり得ない話ではない。【次回へ続く】
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日乗俳句


ホテルの浴衣で

 日本一の繁華街K町にあるQ病院、周辺は歓楽街です。飲食店が密集するエリアと同性同士ではなかなか入れない、その種のホテルが林立しています。この手のホテルも病院を挟んで西側は旧スタイルのホテル街、昔風にいえば連れ込みホテル(宿)の雰囲気を残しています。とろろが、東側に建ち並ぶホテルは外国のリゾートホテルのような洒落たデザインです。
 年令は別にして、男女のカップルが利用するホテルなのですが、固定客となっているのが、売春婦の方たちです。デリヘル系のお嬢さんも利用しますが、彼女たちは車の送迎付き、つまりキッチリと管理され、コトが終わってホテルを出ると待機している車のお兄さんに「売上げ」を回収されます。まあ、これはこれで安心なんですね。万が一、危ない客に遭遇しても、ケータイ一本でお兄さんが駆けつけてくれます。
 昔、新宿のソープランドで腹上死(ATOKでは「ふくじょうし」を腹上死に変換してくれない)した東宮の侍従さんがいましたが、ホテルでもいろいろなことが起こります。意外に多いのが浴室での転倒です。コトの前か後かはわかりませんが、若い女性がホテルの浴衣一枚の姿で救急搬送されました。腰をしたたかに打ったらしく、「それじゃ、レントゲン撮りましょうね」と指示した救急の看護師。よほど虫の居所が悪かったのか、4階のX線検査技師に電話連絡した後、クリアファイルに挟んだ書類を渡して「はい、それじゃあ、4階に上がって、窓口にこれ出して下さいね」。
 この病院では自力歩行できる患者には基本的に看護師が付き添わないのですが、腰が痛いという彼女を、真っ昼間の1階待合ホールを素っ裸に浴衣一枚の姿で歩かせる仕儀となりました。救急処置室に近い職員用のエレベーターを教えれば人目に付かなくていいのに、と思ったのは待機していた救急隊員も同じで、「わあ、ありゃカワイソーだろ」。
 さて、ほとんど裸体といっていい姿でレントゲンを撮り終え、処置室に戻ってからも看護師の厳しいお言葉が続く。救急車で運ばれた彼女にとっては踏んだり蹴ったり、昼間っからイイコトしてたバチが当たったような情けなさか。「あなた、パンツなんか、どうしたの。ホテルに置いてきちゃったの?」。素っ裸に浴衣姿なのに、ちゃんと自分のバッグを持ってきたのには感心したが、パンツどころかブラジャーは言うに及ばず、肝心の服がない、靴もない。「もう一度、ホテルに戻るしかないね」と、救急隊員。
 「戻るって、あなたホテルの名前と場所は判るの?」。昨夜、彼氏と喧嘩でもしたのか、看護師は依然として彼女に厳しい。「すみません、ホテルに名前判りますか」。「私が判るわけないでしょ。その浴衣に書いてあるんじゃないの」。何もそこまで冷たく言わなくても、と思ったら、救急隊員が「ああ、ホテル判りますよ。住所も書いときますから、(タクシーの)運転手に見せれば連れてってくれますよ」。
 小さな声で、「あの〜、一緒にいた彼はどう、しましたか…」。「さあ、救急隊が出る時には部屋にいましたけどね」。彼女が自分のケータイでホテルの電話を調べて問い合わせると「そうですか、ありがとうございます。どうも、ご迷惑おかけしました」。すでにホテルを出たらしい。まあ、そりゃあそうだろう。一人でホテルの残ってたってやることはない。
 レントゲンの結果、骨には異常なく、軽い打撲と診断された彼女、湿布薬と痛み止めを処方されたのですが、昼間の時間帯は救急受付(と薬剤)がクローズなので、一般の患者さんと同じ待合ホールで薬と会計を待つハメに。一人だけホテルの薄〜い浴衣姿で待っていれば、周囲の人も「なんだろ、このお姉さん」という感じでチラチラ。オジさんの中にはあからさまにジロジロと下から上まで観察してニヤニヤする人も。これで外を歩いてたらどうなんだろうと、余計な心配をしてしまったが、なんと、驚くことに会計待ちのタイミングで、ホテルの支払いを済ませた男性が、彼女がホテルに残していったモノを持って病院に駆けつけた。
 救急車がホテルを出た時点では、どこの病院に搬送されるか判らない。多くの人は「そりゃあ、一番近くの病院に行くんじゃないの」と思っているが、腰を打った場合は整形外科の救急当直がいなければ受けないので、救急車からの連絡はどんどん遠くの病院になる。浴衣の彼女、たまたま歩いても10分とかからないQ病院に運ばれたからウンがよかった。真っ昼間からイイコトの代償は大きかったようだが、逆に服を持って追いかけてくれた彼氏との愛は深まったのではないか。会社の同僚ふうに見えた二人、真っ昼間、会社サボって情事の転倒、プラスとマイナスのどっちに転んだか、その後の彼女と彼氏の愛の結末が知りたい。
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日乗俳句


ああ、コマ劇場

 新宿歌舞伎町を象徴するものが5年前の大晦日に閉鎖されました。その後に取り壊されて現在の跡地周辺は工事用の高いフェンスに囲まれています。そう、歌舞伎町の映画館に囲まれた広場の一角を形成していたコマ劇場です。演歌の殿堂といわれたコマ劇場、浅草公会堂と並んで演歌ファンの聖地ともいうべき場所ですが、解体工事以降、跡地はそのまま残され新たな建物の気配がありません。計画では、地上31階地下1階建て、高さ130メートル、延べ床面積55,390平方メートルの、シネコンやホテルが入る複合インテリジェントビルが2015年開業となっていましたが、今が2013年11月ということを考えれば、魔法でも使わない限り実現はムリでしょう。
 コマ劇場と周辺の映画館に囲まれた広場には、かつては噴水の上がる池があり、神宮の早慶戦が終わった早稲田の学生たちで賑わいました。噴水も池もなくなった現在、この周辺は住所のない人たちと春を売るお仕事の女性(ときに男性)が多く生息するエリアになっています。よくテレビなどに出てくる歌舞伎町交番は目の前ですが、まあ、交番の目の届く範囲にあるので逆に安全、といえるのかも知れません。
 で、今回は病院とは関係なく、かつて賑わったコマ劇場の話です。
 コマ劇場に限らず、劇場では観劇会などの招待イベントがあります。会社の創業記念日のお祝い観劇会ご招待、お得意様の奥さまを招いての歌謡ショー。演歌の大御所が出演していれば、ご招待の奥さま(ま、皆さんそれなりの年配ですが)方も、目一杯にめかしこんでのお出ましです。開演前にコマ劇場の正面に集まったお客さんには招待券と引き替えに豪華なお弁当や飲み物が配られます。各自、その袋を持って客席に向かいます。このお弁当は昼の休憩時間に食べるわけですが、久しぶりに着物をお召しになたご婦人方、少々ムリをして帯を締めているので、せっかくの豪華なお弁当も喉を通りません。
 そうした観劇会の翌朝、コマ劇場では残った弁当が山のように廃棄されます。もちろん、廃棄場所を決めて出しているのですが、豪華弁当や飲み物の廃棄を住所不定の方々が見逃すはずはありません。観劇会の翌朝のお楽しみなのです。携帯も持たない彼ら、こういう情報がどこをどう伝わるのか、地元ばかりか、見慣れない顔ぶれも集まって、弁当の多くが彼らの胃袋に収まります。
 ええ、昨日の今日ですから、弁当が傷んで彼らが腹をこわすことはないのですが、万一のことがあっても大丈夫。歩いて3分とかからずに24時間救急体制のQ病院が控えてるというわけです。そのコマ劇場がなくなって丸々5年、彼らにとっては、文字どおり「ああ、コマ劇場」でしょうね。
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日乗俳句


中国は24時間

 普通の病院は入院患者への面会時間が決まっています。病院によってまちまちですが、午前中だけ、あるいは午前と午後の数時間と決めている病院が多いのですが、K町Q病院は朝の7時から午後8時まで面会ができる。要は、病院の正面玄関のオープンと同時に面会ができる、めずらしい病院です。
 ところが、朝早くから開くのでオープンと同時に「ご休憩」にやってくる人たちの存在は厄介です。住所のない人たちにとって病院の待合室は快適です。冷暖房完備で飲料の自動販売機では冷たい水も飲めます。というのも、病院の自動販売機には「冷水」ボタンがあって、これは無料で紙コップ1杯分が出てきます。もちろん、この「冷水」は院内薬局などで処方された薬を飲むためのもの。その「冷水」ボタンを何回も押し、大胆にも空のペットボトルに詰め替えて持ち去るヤカラも。
 面会を装っての「ご休憩」の人たちには待合室からの立ち退きをお願いするのですが、敵もさるもの、百戦錬磨の方々。「面会に来たのに追い出すのか!」。まず、この反撃です。「それじゃあ、面会票に記入して下さい」「そんなもの今まで書いたことない。なんで今日だけ書かせるんだ」。ここで押し問答をしても仕方がないので、「面会は何階の患者さんですか」と聞くと、大体ここでボロが出る。「8階の○×さんだ」。実は病院は1階の受付・待合ロビーや薬局のフロアから、それぞれの階に各診療科の診察室、検査室、事務局、医局、リハビリなどがあって、病棟に使われているのは5フロアだけ。院内を知らない人は15階を超える建物のほとんどを病棟と思っている人が多い。「残念ながら8階には病棟ないんですよ、はい。お引き取り下さい」。
 1日に何人かこういう「ご休憩」さんはいるのですが、お国によって面会時間はさまざまなようです。日本一の繁華街K町にはさまざまな国の人たちが住んでいます。韓国、中国系に加えてアジア系入り乱れての多国籍の街。なかでも中国人の自己主張はグンを抜いています。まず、他人の話を聞かない。自分の主張、言いたいことをまくし立てる。圧倒的な迫力です。日本語がわかるのに、都合が悪くなると「ワタシニホンゴワカラナイヨ」という外国人は多いのですが、中国人は日本語でまくし立てて圧倒しても、劣勢になると中国語以外を一切使わない。で、最後にひと言、ツバキとともに「アナタ、シヌヨ」。
 で、深夜の1時に入院患者に面会に来た中国の若者。聞いてみれば留学生仲間が入院、「自分たちは学校と仕事、忙しいので夜中しか面会に来られない」。とっくに面会時間は過ぎている、夜間は唯一の出入口となる警備室前で中国人の若者2名。「面会時間は過ぎていますので、明日来て下さい」。当然、彼と彼女は「私たちは忙しい」と主張する。ここで驚いたのが「中国では病院はどこでも24時間面会OKよ」。「中国は中国、ここは日本ですから」。と、この説明が通るくらいなら、中国と日本はここまでイケナい関係にはならなかったはず。面会にしても、救急受診にしても、正しいのは常に中国。「敗戦国」という言葉すら思い浮かぶほどだ。
 「日本の病院はダメね。病人が入院してるのに、なぜ面会ができない」。「規則ですから」なんて言葉は彼と彼女にはまったく通用しない。「あなた、責任者出しなさい」。で、夜間の当直看護師長に連絡すると、「中国人? 面倒だなぁ。面会は何階なの」。そう、中国人はとにかく面倒を持ち込んでくる。看護師長は当該病棟に連絡を取って患者を確認。その間に「勝利」を確信した彼と彼女は携帯電話で入院患者に電話。どこにいたのか、当の入院患者がエレベーターで降りてきた。
 看護師長から「患者さんが病室にいないって。外に出て行ってないですよね」。「もう、ここに来てますよ」。その言葉に「ああ、よかった。外には出てないのね」。結局は「それじゃ、1階のエレベーターホールで会わせてあげて」。中国の彼と彼女、ゴリ押し恐るべしです。
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日乗俳句


変なものが出てきた

 「変なものって、どんなものですか」。電話の会話はけっこうリアル。 「はい、それでは千切れてしまったのをビニールに入れて持ってきて下さい」。総合案内の看護師は電話を切った。総合案内には診察希望の患者からさまざまな電話が入る。K町Q病院の診察券を持っているという女性の患者さん、トイレで排泄していたら違和感を感じて、ひょっと排泄物を見ると「ええッ、なんだか白いヒモみたいなものが」。ウンコではなく白いヒモ状のものがそこにあった。問題はその先だ。「なんだか、肛門から少し出ているみたいで」。つまり白いヒモ状のものが途中で切れてしまっているらしい。すでに排泄したヒモ状のその長さは「1メートルくらいあるかも」。「それ、サナダムシだと思います。そのままビニールに入れて持ってきて下さい」となった次第。
 サナダムシは普通に育っていれば数メートル、サナダムシがいることでダイエットができるという風説があるようですが、あくまでも寄生虫の一種。ただ、身体に急激な変化、ダメージを与えないというだけで、身体にいいわけはありません。それにしても排泄したサナダムシの残骸をビニールに入れて、さらに肛門から途中まででかかったサナダムシをそのままに「病院に来て下さい」って、ちょっと可哀相。総合案内では性別、年令、既往症、診察券の番号などを聞くのだが、この患者さんの場合は妙齢といっていい20代。なんだか、想像しただけで可哀相そうだなと思っていたら、なんと、でした。
 そうイケメンの彼氏が「はい、これです」とビニール袋。「まだ、中に残ってますよね」の看護師の問いかけに、「引っ張っても出てこないので、とりあえず中に押し込んでおきました」。想像すると、笑えるような怖いような、あなたならどうします?
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日乗俳句


まずは地元でどうぞ

 大学病院をはじめ地域の拠点病院(200床以上)は、基本的には紹介状が無いと受診できない。これは地域医療連携体制によって、地域の診療所やクリニック、医院などの医療機関と拠点病院が連携して地域医療を担うことを目的にしている。地元のクリニックが患者を診察して風邪だと判断できれば風邪薬を処方する。しかし、CTやMRIなどによる検査が必要と判断すると、紹介状を書いて検査可能な医療機関の受診を奨める。紹介状には医療機関名だけでなく医師を指名したものや、診療科だけを指定したものなどがある。例えば当該の患者が入院した場合には、紹介状を書いた地元の医師も紹介先の病院で患者の診療支援をすることもできる。
 もちろん、紹介状がないと受診できないわけではないが、この場合は非紹介加算料が加算される。医療機関によって料金は様々だが、千円台から5千円を超える大学病院もある。地域医療連携体制では、まずは地元の診療所やクリニックを受診する“かかりつけ医”を持つことを推奨している。
 K町のQ病院も地域拠点病院として多くの患者を受け入れているが、患者にとって不思議なのが非紹介加算料の存在だ。初診時に初診料の他に、紹介状が無いために3千円も加算されるのは納得できないというわけだ。だが、非紹介加算料に納得できなくて受診をせずに帰ってしまうケースは稀だ。普通は、患者は病院には逆らえない。
 紹介状がないと、非紹介加算料が加算されるだけでなく、待ち時間が長くなる。紹介状がないと、最初に受診する診療科を決めなくてはならないからだ。そこで総合案内なり、診療案内のセクションで症状を説明する。このセクションには通常はベテランの看護師が待機している。症状から診療科目を決めると担当医師に連絡して診察可能かどうかを問い合わせる。当然、予約患者や紹介状の患者がいるので、待ち時間が長ければ同じ診療科の別の医師へと回されることもあるが、予約していても「なんでこんなに待たされるんだ」と患者の不満が常態化しているのが「大きな病院」。そこでの決まり文句は「最後になるかもしれませんけど、よろしいですか」。患者の多くは「最後って?」。看護師は「予約患者さんの最後が5時ですから、それ以降ということになりますね」。
 午後1時から半日待って、それで案外に多いケースが「風邪ですね。2、3日安静にしていれば治ります」。これなら最初から地元のクリニックで受診した方が、待ち時間も少なく、もちろん出費も少ない。おまけに、多様な患者で溢れている病院で新たな病気をもらう可能性を考えれば、まずは地元で、“かかりつけ医”へ。
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日乗俳句


春色の襟

 趣味の俳句で、「アル中の春色の襟白き胸」という句を詠んだ。
 病院には時に、信じられないような患者が来る。例えば、句にあるアル中患者だ。普通、アルコール中毒といえば、一般的には中年で無精ひげの生えた薄汚いオッサンを思い浮かべるだろう。あるいは、4段腹くらいの中年のおばさんか。どっちにしてもアルコールが浮き出たような汗を額に光らせている、そんな図である。
 ところが、「アル中の春色の襟白き胸」の、その患者は年齢は20歳を少し過ぎたくらいか。救急外来に救急車で運ばれてきた。といって、患者は暴れるわけでもなく、救急隊員の言うことをきちんと理解している。物腰も静かで、どこか優雅ですらある。薄いピンクのシャツを着て、それに白い肌が映える。こんな時に「病的な白さ」というのか、と思った。櫛目が通った黒い髪。痩せぎすな胸に薄いピンクのシャツが清楚さを際立たせている。立ち上がると、彼女は黒い膝上のスカートにビーチサンダルを履いていた。救急隊が到着した時に、そのビーサンが一番履きやすかったのだろう。どこかちぐはぐだが、「なぜ、この人がアル中?」と。
 しかし、彼女を診た医師の言葉はきつかった。「なんだ、またかよ」。「ダメだよ。この前、約束しただろ」。この手の患者に医師が本気で叱責するのはめずらしい。普通は「なんだよ、またか」と、救急隊の書類にサインをして、患者はお帰りいただく。「なんで、酒を止められないんだよ。このままじゃ、身体はボロボロだよ」。
 20歳を少し過ぎたばかりの女性が、アルコール中毒になるって、どういう人生の経緯なのだろう。付き添いもなく、聞けば、自ら「119」をダイアルして救急車を呼んだ。それも朝の9時過ぎである。彼女は何時間、飲んでいたのか。それにしては静かに、大人しく救急隊員や看護師の指示には従順だ。頷く時に、少し微笑む口元は涼しささえ感じるほどだ。信じられない事実が、朝の9時に目の前にある。歌舞伎町という街は、まったく不思議な世界だ。
 「夜更けての赤色灯に月清か」
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日乗俳句


薬、売ります

 20日分の湿布薬を使い切ってしまったから「もっとくれって言ったら」、医者は「20日分を10日で使ってしまったからといって、新たに湿布薬は出せません」。これは当然の対応だ。医師は患者の症状に応じて薬を処方する。つまり、この患者には20日分の必要な湿布薬の処方箋を交付(書き)、患者は納得して薬局で湿布薬を処方してもらった。
 話は逸れるが、日本では処方箋は医師が交付することになっているが、医師だけでなく薬剤師自身が処方箋を交付できる国もある。もっとも、今の病院は処方箋を書くのはコンピュータの端末で、必要な薬をクリックして送信ボタンを押せば院内薬剤のセクションに送られ、同時にプリントアウトされる仕組み。また、処方箋には有効期限もあって、長期の旅行など特別に期限の記載がない限りは有効期限は発行日を含めて4日間。紛失や期限失効などの場合には再発行の料金が発生する。薬剤の種類によっては再診察した後に改めて交付する場合もある。
 薬が転売されることは、普通はあまり知られていない。だが、転売が当たり前に行われているのだ。一般の市販湿布薬と効能がほとんど変わらない薬局処方の湿布薬の転売などはあまり考えられないが、通常は手に入らない薬だと、これは立派に転売対象になる。例えば鎮痛剤、抗生物質などQ病院のあるK町には需要の多い薬剤だ。睡眠導入剤や向精神薬などは高値で取引きされている。
 薬剤の処方は厳密に管理されているので、IDカードをチェックすれば、診察の履歴や処方された薬の種類もすぐにわかる。ところが、これが他人の保険証で作ったIDカードだったらどうだろう。K町では健康保険証の使い回しは日常茶飯事だ。1枚の保険証を数人のホストが使いまわす。保険証を受付に出して、問診票に記入する。そして、受付のスタッフが「はい、ここもお願いします」と、氏名、住所の欄を指差すと、「ええっ」。おいおい、自分の名前と住所だろう? 「ちょっと保険証見せて」。アルバイトの夜間救急のスタッフも先輩からの申し送りで対応は万全。「ご自分の住所がわかりませんか」といえば、「今日引っ越してきたばかりなんで」。「今日引っ越して来て、なんで保険証を持ってるんですか」。「面倒くさいこと言うなら、今日はいいよ!」と保険証をひったくって、捨て台詞。
(20131002:追記)
 最近、ソニーが開発した「お薬手帳」のカード化に関してテスト運用されるという。患者が処方された薬を磁気カードで一元管理しようとの試みだ。カード化が実現すれば同じ期間に同じ薬が処方されることがなくなる。薬局が患者に引き渡す前に重複が判明するため、薬の不正な取得は難しくなると思われる。
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日乗俳句


単2×2本の直列

 世の中にはいろんな趣味を持っている人たちがいます。また、他の人にはなかなか理解できないマニアックな趣味を持つ人も多くいます。例えば、女装マニア、逆に男装マニア。ある意味では同性愛にも通じる世界があります。性同一性障害など病理的に解釈されなければならないケースを除けば、女装も男装も、趣味の世界、マニアックな世界になるでしょう。
 昔、ポラロイドという写真のシステムがありました。シャッターを押して数分待てば、写真が完成(現像)するという、アレです。このフィルムは1パックが10枚入りで売られていました。しかし、愛用者から「10枚も要らない。5枚でいいから、値段を安くして」という要望がかなりあったようです。あるラブホテルのオーナーはポラロイドカメラの貸し出しサービスをして大当たり。「でも、10枚も要らないって」。で、驚くのは「写真を撮ってくれって、そういうお客さんが案外多いんですよ」。えッ、その最中に?「そう、その場面を撮ってくれって」。オーナー自身はそれほど抵抗はなかったが、女性の従業員は「案外と平気で『いいですよ』という人と、『社長、変態サービス止めて下さい』という人もいて」と、分かれたそうだ。
 ラブホテルだけでなく女装趣味の人たちにも愛用されたようで、かつて神田にあった女装の館「エリザベス会館」に営業に行った社員は、その異様な雰囲気に圧倒されたそうだ。会員のロッカーがあり、その中には女装用具一式が入っていて、「立派な紳士からデブまでいろんな人たち」が男から女に変身する。「まあ、その化粧の念入りなことは女性以上」。営業マンは「そこでデブ専のホモビデオ見せられて気持ち悪くなった」そうだが、ここではホモ行為自体は禁止されていて、あくまで女装の館。
 病院には女装も男装も、ホモもレズもいろんな趣味の人が患者として出入りする。「どうしてそんなことになるの」と思う、不思議な患者も“ピンポ〜ン”とインタフォンを押す。夜の11時を回った頃、スーツにネクタイ、手にはビジネスバッグ。普通の30代のサラリーマンが1人。看護師の「どうしましたか」との問いかけに、「ちょっと…、あの〜、先生は?」。「症状をお聞きしてからドクターに連絡しますから」。モジモジとしているサラリーマン、「実はちょっと悪戯してたら取れなくなっちゃって」。要は、「悪戯して」乾電池を2本、肛門に入れたら出てこないのだという。ここで看護師の鋭い突っ込みがよかった。「乾電池入れたの。それって単1? 単3?」。「はい、単2が2本です」。看護師が冴えている。「へえ、単2が2本の直列ね」。
 「イキんでも出ませんでしたか」に、小さく頷く男性。「まあ、肛門科が専門だと思うんだけど、それは自然に出てくるはずですよ、心配しなくても」。「明日になっても出てこなくて心配だったら、肛門科の医者で診てもらったら?」。最後に看護師のダメ押し。「その乾電池、自分で入れちゃったわけ。でも、これからは単3くらいにしときなさいね」。
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日乗俳句


人が落ちる

 自身も作詞家である五木寛之が「怨歌」歌手といった藤圭子さんが新宿のマンションから飛び降りて自殺した。62才の彼女が30代の男性と同居していたという。どういう事情があったのか判らないが、女として寂しかったのか。20代から彼女の歌を聴いてきた。今も、2枚組のベストアルバムを聴きながらこれを書いている。新宿の高層ホテルではタレントの沖雅也も飛び降り自殺をした。その前にはやはり新宿のマンションから女性タレントが飛び降りている。どうも、芸能関係者は新宿が多い。13階といえば、相当高い。昔、東京に高島平団地ができた時に、自殺の名所として有名になった。仕事のついでに新聞報道された当該の棟に行ってみた。下を覗いて、震えてしまった。まあ、飛び降りようとする人にとっては2階も13階も関係ないのだろう。
 病院ではどうだろう。ある夜、病院の植え込みにドサリと何かが落ちた。その「何か」が人間だとは思わない警備員は、面倒だなあと懐中電灯を手に外に出た。また誰かがゴミの袋でも植え込みに投げ込んだか。なかには猫の死がいを4匹も段ボールに入れて捨てていくヤカラもいる。で、警備室に戻ろうとした懐中電灯が捉えたのが人間の足らしきもの。「らしきもの」はK町交番の警官が「人間」と確認した。最近の病院は敷地を拡げられないので高層化が進んでいる。藤圭子さんが飛び降りた13階以上に病棟がある病院も多い。ホテルの窓が嵌め殺しで全く開かなかったり、開いても数10センチというところが多い。病院も同じで、多くの病院では全開はできないようになっている。Q病院もストッパーでおよそ20センチ程度しか開かない。普通の成人ではここをすり抜けるのは難しい。
 だが、人間というのはイザとなると常人には考えつかないことをやってのける。排煙窓や排煙扉がある。もちろん、火事になった時に煙を排出するための窓や扉だ。病室の窓が全開しないとなると、排煙扉である。もちろん、こういう装置は勝手に開けると警報が鳴る。この警報は警備管理室だけでなく病院全体に鳴動する。警報が出た当該の排煙扉には当直看護師や警備員が急行するのだが、多くは「ちょっと煙草を…」という患者だ。これはこれでホッとしながら厳重注意だが、それでも、やはり人が落ちる。
 植栽に落ちればまだしも、13階から歩道に落ちては助かるまい。どういう人生であったにせよ、藤圭子らしい最後ともいえよう。18才のデビューから、そう運命づけられてしまった彼女は、最後まで「藤圭子」を演じ続けたということか。合掌。
(私の好きな歌「織江の唄」は五木寛之作詞、山崎ハコ作曲の名曲です)
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日乗俳句


真夜中の闖入者

 深夜も2時を回ったQ病院1階の男子トイレ。救急担当の看護師(男性)が尿意を催した。1階のトイレは救急措置室から10メートルとは離れていない。いつものように、トイレが終わったら一服して戻るつもりだった。ちなみに、「禁煙外来」を指導している医師がヘビースモーカーだったり、病院という所はドクターもナースも、割合は低いが喫煙者がいる。しかも、かなりのヘビースモーカーが多い。Q病院は病院機能評価機構の認定を受けているので敷地内での喫煙はできない。しかし、ドクターやナース、病院関係者がタバコを吸うたびに敷地外に出ていては勤務に支障が出かねない。で、つまり1ヶ所のまとめて吸わせてしまおうという“配慮”が働く。詳しくは書けないが、一般企業でいえば給湯室が緊急避難場所になっていたり、非常階段が寂しい喫煙所だったり、それと同じように喫煙スペースを確保している。
 喫煙問題はさておき、1階トイレに入った看護師の耳に、「ダイジョブダ、ダイジョブダ…」。ん? 空耳か。いや、たしかに「ダイジョウブ」を繰り返す微かな声がする。2つ並んだ個室の一方から、「ダイジョブダ、ダイジョブダ」。看護師は考えた。今の時間に1階のトイレを利用するのは看護師や常駐している警備スタッフくらいなもの。患者やドクター、ナースはそれぞれの病棟のトイレを利用する。だが、たまにワンカップを持ち込んで“個室で一杯”、タバコを吸って火災警報を鳴らす患者もいる。
 間違いなく「ダイジョブダ」が聞こえる。看護師は警備に連絡、警備員がやってきた。人がいるのは確実。「どうしました」を何回も声を掛ける。「大丈夫ですか」の問いかけにも返答がないが、「ダイジョウブ」は聞こえる。警備員が隣の個室から覗いてみると大柄な若者がパンツを下ろして便座に座っている。「どうしました」「具合が悪いんですか」。病衣を着ていないので患者ではないらしい。それにしても夜中の2時にどこから入り込んだのか。正面玄関が9時に閉鎖されると病院への出入りは警備室前の扉だけ。その扉の開閉は暗証番号を打ち込むか、インタフォンで警備で解錠してもらうしかない。看護師、警備員の問いかけに返答がないので、救急看護師長が「不審者」として警察に連絡。警官2名がやってきた。「ここ開けなさい」「鍵を外しなさい」も一切無視。鍵は個室の中からしか外せない。警備員が個室を乗り越えて鍵を開けた。
 中にはパンツを下ろした若者が。剛毛がイチモツを覆っている。それも金髪だ。看護師も、警備員も警官も驚いた。「ちょっと、何してるの」。と、今度は「キレイ、キレイ」。コイツか、警備員は気が付いた。噂の“コウモンキレイ男”だ。病院周辺の警備関係者の間で噂の男。なんでも肛門に指を入れて、その臭いを嗅ぐのだという。それまで、何回もトイレットペーパーで肛門を拭くのだそうだ。それも尋常の量ではない。尻を便座から浮かせると、右手人差し指を肛門に。おお、やってる。そしてその指を鼻先に。「キレイ、キレイ」。取り巻く一同が唖然、近寄れない。ただ、それを繰り返すだけで危害を加えるわけではない。警官に「パンツ上げて、ズボンをはきなさい」と言われても「キレイ」行動を繰り返す。「キレイキレイ、ダイジョブダ」と言いながら男性看護師と警官が3人でズボンをはかせる。厳密にいえば建造物不法侵入だが、ドリフターズのような「ダイジョブダ」が場の雰囲気を違うものにしていた。
 所持品を調べると障害者手帳や家族や保護施設の連絡先がきちんと書かれている。トイレを出て警備室に移動、警官が家族に連絡、朝まで警察で保護して、「朝になったら引き取って下さい」で一件落着。聞いてみれば夕方にトイレに入ったままの長期滞在だったという。誰も、まさか同じ男が入りっぱなしとは思わない。それにしてもイチモツの大きさ、何故の金色? 真夜中のとんだ闖入者、“コウモンキレイ男”は警察で指は洗ったか。
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日乗俳句


全裸のプラチナ妊婦

 おいおい、真っ昼間にどうしちゃったの? 病院の正面玄関で若い女性が全裸になった、ある夏の昼下がり。K町Q病院の正面玄関に横付けしたタクシーから、細身の若い女性がお腹を押さえてヨロヨロと降り立った。慌ててドライバーが飛び出してきて、「陣痛が始まったって!」。たしかにフラついていはいるが、どう見ても臨月の女性とは思えない体型。自動ドアが開き病院の風除室に入ってきた女性、にわかに着ている服を脱ぎだし、とうとう下着も脱ぎ捨て全裸に。夏なので脱ぐのは簡単だ。おいおい、どうした? と思っているうちに風除室で倒れ込んだ。若々しい乳房に、剃毛したように薄い翳りも目撃。
 全面ガラス張りの風除室で若い女性が全裸になっているのだから、すでに何人かの患者が気付いて「あらあら、どうしたの」。
 可哀相なのは女性を乗せてきたタクシーのドライバー。病院まで来たのはいいが、料金はもらっていない、おまけに素っ裸になっちゃった。それでも、このドライバーはエライ。女性が脱ぎ散らかした服を全裸の女性に掛けてあげ、バッグから飛び出したモノを拾い集めている。「大丈夫だからね」「ガマンできる?」と声を掛ける。まあ、若い女性が目の前で全裸になったら、男なら戸惑いながらも邪険にはできないだろう。やがて救急外来の看護師が押っ取り刀で毛布を持って駆けつけた。「どうしちゃったんですか」とドライバーに聞くと、「いやぁ、もうじき産まれそう、急いで病院へ、って」。看護師はお腹にかけられた服を持ち上げて「妊娠してるの」と女性に声を掛ける。「産まれそうなんです」と苦しそう。
 全裸女性を毛布を包み、ストレッチャーに載せて処置室へ。Q病院には婦人科はあるが産科はない。まあ、素人目にも妊娠しているとは思えないモデル並みの体型だ。看護師が尋ねると、母子手帳はないし、これまで産科も婦人科の受診もしていない。「何で妊娠していると思ったの」。女性はお腹を押さえながら「だって、ズッと生理が無くて」。「どのくらい無いの」「もう、ズッと」「だから、何ヶ月くらい」。半年以上も生理が無く、最近は悪阻のような症状、嘔吐をしたりするという。本人はすっかり妊娠していると思い込んでいるが、婦人科のドクターも「生理がないのは、妊娠以外の原因だと思うよ。落ち着いたら服着て帰りなさい」。
 それでも、と女性は涙ぐむ。「尿検査してみますか」と、看護師が区切りを付ける。検査の結果はもちろん陰性、つまり妊娠していなかった。それでも、検査結果を見せられても陰性に納得できない様子で服を着始める。「生理がないのは栄養が足りないとか、それはちゃんと婦人科で受診しないとね。ウチでもいいし他でもいいから必ず受診しなさい。いい、わかった」。ここでホッと安心したのがタクシーのドライバーだ。ここまで約1時間、ズッと待っていたのである。
 その前に驚いたのが、病院の会計で出したカードがプラチナカード。この「プラチナ妊婦」の話題は救急スタッフの間で、「あれ、そういえば女優の××に似てなかった」「有名人の娘とか」「いいとこのご令嬢だったのかもね」。「そうよ、保険証も持ってなかったでしょ。保険証出せば本名がバレると思ったんじゃない」。人騒がせな「プラチナ妊婦」も、宿直スタッフの熱帯夜の暇つぶしにはなったようだ。
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日乗俳句


脱ぎたい衝動

 とある夏の日、地方暴力団の組員を逮捕に行った警察。違法薬物所持と使用の容疑での身柄の確保だったが、マンションのインタフォンをピンポンしても返答がない。ベランダ側の警察官からの連絡ではガラス戸は全て閉まっているとのこと。玄関側のガラス窓も閉まっている。クーラー全開なのか電気のメーターも派手に回っている。管理人に令状を示して解錠を要請。で、玄関ドアを開けた警官の前には驚くべき光景があった。
 キッチンの奥の部屋では全裸の男女が絡み合っている。男は逮捕すべき組員だろうが、寒いほどクーラーが効いているのに、汗をかきながら布団の上で女の乳房を貪っている。男のモノは硬直しているのが一目でわかる。ということは女の中には挿入されていないのに、女は歯を食いしばって悶えている。女の声が外に漏れないように口にはタオルか下着を詰め込んでいる。警官が注目したのが女の下半身。その部分はガムテープで固定されている。一昔前のピンク女優がやった前貼りのように。三重に陰部を覆うガムテープの間からコードが伸びており、その先にはバイブレーターのスイッチコントローラーが。
 そう、女のソコには極太のバイブレーターが挿入されており、それをガムテープで留めていたのだ。違法薬物をやってセックスをすると絶頂感が持続するという。男は絶頂に達すれば持続は不可能だが、女はピークが持続するので男はバイブを挿入してガムテープで留めたという。男の回復も早いが、とても女の勢いには追いつかない。薬物を使用すると身体が熱く感じる。実際には平熱体温でも異常な体温上昇を感じて着ているものを脱いでしまう。時々、薬物使用者が全裸で戸外に出てしまって逮捕される事例もある。
 Q病院にも違法薬物使用者が運び込まれることがある。ある日に運び込まれた若い女はK町のチンピラに「セックスがもっと良くなる」と覚醒剤を強制された。救急車で運び込まれた女、車内ではストレッチャーのベルトで固定されていたものの、診察台に移動する際に暴れ出して突然に着ているものを脱ぎだした。こうなると手を付けられないので救急隊員も看護師も女の脱ぐままに。全裸になると女は「帰る〜ッ帰る〜ッ」。「突然、熱い熱いって叫びだして…」、と一緒に来た男。薬物使用と判断した医師は警察に連絡して「お引き取り」を要請。
 で、全裸になった女は色白でスタイルは抜群で、思わぬ目の保養。この手の患者は落ち着けば素直に着衣して警察官とS警察に同行。もちろん、一緒の男も。
 また、ある夏の昼下がり。Q病院の正面玄関に横付けしたタクシーから細身の若い女性がお腹を押さえて降り立った。慌ててドライバーが飛び出してきて、「陣痛が始まったって!」。たしかにフラついていはいるが、どう見ても臨月の女性とは思えない体型。自動ドアが開き病院の風除室に入ってきた女性、にわかに着ているワンピースを脱ぎだし、とうとう下着も脱ぎ捨て全裸に。おいおい、どうした?
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日乗俳句


どう分かれてるの?

 町の医院の看板に「内科」「外科」「耳鼻咽喉科」「整形外科」「皮膚科」などと書いてありますが、この○科、△科という分け方はかなり曖昧ですね。熱が出たら内科、ケガをしたら外科へ。扁桃腺が腫れたら耳鼻咽喉科で、皮膚の痒みなら皮膚科、女性の病気なら婦人科ですね。火傷(ヤケド)はどうでしょう。火傷は本来は皮膚科の領域ですが、軽い火傷なら整形外科でも診てくれます。
 最近は日本人でも「外科」を「ガイカ」と読む患者さんがいます。まあ、「内科」が「ないか」なので「外」を「がい」と読めば「がいか」なんですね。また、「産婦人科」は「婦人科+産科」なのですが、女性でも「婦人科」と「産婦人科」の区別が付かない人も多いですね。
 町の医院と違って総合病院になると消化器、循環器、呼吸器、脳神経など、診療する器官別の分け方がされます。さらに消化器内科、消化器外科などと同じ器官でも内科と外科に分かれます。同じ消化器でも内科と外科ではドクターも違います。外科的な手技が主体になるのが整形外科、歯科口腔科、眼科などでしょうか。婦人科は同じドクターが内科と外科の両分野を担当します。こうなると、普通の患者さんは自分がどこを受診すればいいのか判りません。
 そこで大きな病院には総合受付や総合案内を設けています。いわば病院のコンシェルジュですね。ここで相談すれば適切な診療科を案内してくれます。このセクションはベテランの看護師が担当するのが普通で、同じ消化器内科でもドクターそれぞれの得意の器官も把握しています。同じ整形外科でも肩が得意、股関節、腰椎など専門分野はそれぞれです。
 例えば包丁で指を切った、骨を折ったなどの、一般的にいわれるケガの診療は整形外科が担当します。Q病院がある歌舞伎町では酔っぱらいの喧嘩、ホストやキャバ嬢の身内の喧嘩に、その筋の人たちの喧嘩などでのケガが絶えません。酔っぱらって転んで顔面をケガすることも。
 こんな場合は、同じケガでも整形外科のドクターはあまり診たがりません。整形外科のドクターは通常の傷口の縫合なら上手にできますが、顔のキズの縫合となると形成外科を奨めます。よく混同されますが、形成外科と整形外科は全く違います。骨折で形成外科に行っても診てもらえませんよ。
 ただ、当直で眼科のドクターがいるとラッキーです。眼科のドクターは日常的に目の回り(瞼など)や角膜手術など細かい縫合、形成外科的な縫合に慣れているので、キズを残さずに縫合するのが上手なのです。
 といっても、これは女性患者の話、男性が顔面をケガした場合は「ああ、これキズが残るよ」と、整形のドクターがさっさと縫い合わせます。
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日乗俳句


アレ下さい

 間もなく夏休み。遊びたい盛りの生徒や学生にとっては嬉しい夏休みだ。友だちや家族で夏休みの計画を立てて、ワクワクと待ち望んでいる子供たちも多いだろう。また、高校生や大学生になると夏休みは彼女や彼氏とのロマンチックな思い出づくりにウキウキの季節。それはまた、女性にとっては危険な季節でもある。
 病院の窓口に若い女の子が「アレ下さい」と気軽なのだ。さすがに真っ昼間の初診受付に「アレ」を求める患者はいないが、多くは早朝や深夜の救急夜間外来だ。「アレ」というのはアフターモーニングピルのこと。アフターモーニングピルとは、文字どおりアフター、つまりコトの後に服用する避妊用のピルである。そもそもは性犯罪被害にあった女性のために処方される避妊薬で、性行為の後の72時間以内に服用すれば避妊できるというピル。100%の避妊が保証されてるわけではないが、強姦などの性犯罪の被害女性を救済するために緊急避妊をすることを目的にしている。今では「やっちゃった後でも避妊ができる」便利な薬と思われており、遊び盛りの若い女の子には秘かな人気である。
 まあ、性犯罪の被害者でなくても、行為中にコンドームが破損したり、排卵日の計算を間違ってコトに至ってしまったとか。行為の最中は気持ちの良さに夢中だったが、コトが終わって我に返ったら「わァ、どうしよ〜」となることも。夏もまだ始まったばかりというのに、若い男女のやることは早い。某日早朝、「すいません、アレありますか」。この時間、若い女性となれば「アレ」といわれて看護師の頭に浮かぶのは、そう「アレ」なんです。日焼けサロンに通い詰めたのか、見事に日焼けした身体はピチピチ。
 「きのお〜、ゴム付けないでやっちゃってェ。アフターもらいたいんですけどォ」。「アフターピルですか」と聞かれて、「そおそお、そのアフター!」。アフターモーニングピルは処方薬なので婦人科のドクターが診て処方箋を出す。だから、当直医に婦人科の医師がいないと、アフターモーニングピルはもらえない。某日早朝は婦人科当直だったので「保険証は?」「はい、持ってます」。どう見ても若い。もしかして中学生? 看護師が年齢を確認すると、なんと16才。全く悪びれた様子もなく夜間受付に保険証を出す。ピルを出すだけなので診察といっても医師が患者(というべきか)の体調を聞いて、パソコンで処方箋を書き、そのデータが薬剤に回り、めでたく16才少女がアフターモーニングピルを手にする。ネットで調べると、なんとアフターモーニングピルを処方してくれる医療機関がリストアップされているんですね。最近の保険証はカード式なのでカード自体には診察の履歴も残らない。
 この夏もまだまだ長い。何人の女性が快楽を貪った後にアフターモーニングピルを求めに来るのか。もっとも、そんなネエちゃんばかりではなく、「彼氏の友だちに無理矢理やられた」と救急外来のインタフォンを押す女性。「自分の意思に反してのことなら犯罪ですから、まず警察に行って下さい」という事例も。時には、「あそこから出血が止まらないんです」。なんと診断は陰部裂傷。夏にはコノ手の患者が急増します。それはまた、次の機会に。
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日乗俳句


昼下がりの情事

 病院の業務時間は24時間、入院患者が就寝中も夜勤の看護師たちはガンバって仕事をしています。といっても、夜勤勤務中にズッとナースステーションに詰めているわけではありません。各病棟(フロア)に看護師の休憩室があり、ちょっと休憩したり軽く夜食を摘んだりしています。もちろん、院内用の医療用PHSは手放しません。
 24時間を通常は三つに分けて日勤、準夜勤、夜勤のシフトになります。これまで長い間、三交代の勤務シフトが定着してきましたが、一部に二交代シフトも始まっています。Q病院でも病棟によって二交替シフトにしていることは前にも紹介しました。勤務時間は長くなりますが、二交代の方が休み多く取れるメリットがあり、若い看護師には好評のようです。
 病院には病棟の休憩室とは別に仮眠室があります。病院の最上階3フロアに医師用、看護師用に用意されていて、これとは別に救急処置室に近いフロアには当直医使用の仮眠室があります。各診療科ごとに用意されており、室内にはテレビ、ベッド、テーブルに洗面台と、ビジネスホテル並みの最小限の施設があり、当直医使用の仮眠室はスペースもゆったり、ベッドも大きめです。
 医師、看護師用の仮眠室は普段は施錠してあり、仮眠室を使いたい場合は、キーの貸し出し簿に記入して警備スタッフからキーを借り受けます。夜勤明けで午後から準夜勤の勤務だと、一度帰宅してから出勤するよりも、仮眠室で仮眠をして、食事の後に準夜勤の勤務に入った方が楽だというわけですね。とくに、家族のいない単身の若い看護師には仮眠室利用が多いです。とくに、勤務がハードな手術室(救急)看護師は頻繁に利用します。
 仮眠室は本来「仮眠」のための部屋なのですが、ベッドがあって、誰にも邪魔されない密室となれば、男女の密かな楽しみにも使われます。勤務明けの開放感に高揚するのでしょうかね。問題は、この仮眠室は24時間、モニタリングされていることなんですね。そう、監視モニターに仮眠室のドアが映し出されているんです。ですから、誰が何時にどの仮眠室を利用したか、モニターを見ていれば一目瞭然。この映像が当然録画もされています。このモニター、本来の目的はエレベータホールの監視なんですが、たまたま各フロアとも仮眠室のドアが写ってしまうんです。不思議なのは、モニターのカメラはエレベーターホールの天井に設置されていて、誰が見てもそこにカメラがあるのがわかるということ。まさかカメラがダミーと思ってるんじゃないでしょうけど…。
 昼間のお楽しみは十数分ですむこともあれば、準夜勤明けでは朝までの「お泊まり」もあって、一晩にお二人と楽しむという猛者も。束の間の「昼下がりの情事」で英気を養って「次の勤務も頑張るぞ! となれば双方ハッピーなのですが、そこは男と女、モニターで修羅場を見ることも。そうそう、お楽しみは男女ばかりではありません。最近は看護師同士のカップルも。出てきた時のほつれ髪がなんとも悩ましい光景です。直後に出会うと「ご苦労さま」の意味が意味深です…。
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日乗俳句


救急車はどこに行く

 119番に電話をかけると、患者の症状を聞いて最寄りの救急車が駆けつけます。最寄りといっても現場に一番近い消防署の救急車が出動するとは限りません。また、救急車に収容されても、その現場から一番近い救急病院に運ばれるわけではありません。救急病院に先着の救急搬送患者があれば受け入れはできないのです。救急病院には1次救急から3次救急までありますが、3次救急は総合病院でほぼ全科目の救急を受け入れます。2次では内科系、外科系などで3〜4科目の救急を受けています。1次は単科の救急受け入れをします。
 では、救急車(通信司令センター)はどのように救急病院を探すのでしょう。たとえば歌舞伎町のQ病院は2次救急病院なので内科系、外科系の医師が24時間2〜3名当直しています。ところが、夜間外来の患者を受けている関係で、3名の当直医師が対応していると救急患者の受け入れはできません。「30分後なら」といった条件での受け入れはできますが、救急患者の場合は30分も待っていられないので他の病院を探します。
 Q病院の救急外来の救急受け入れ情報は常に救急通信司令センターに送信されているので、その時点でどの科目の患者を受け入れているかがわかります。受け入れできない場合には、救急の受け入れできない科目をオフにします。
 119番して救急車を呼ぶと救急車はすぐ来るのに、なかなか搬送先が見つからないということもあります。というより、すぐに見つかる方が稀です。いわゆる「たらい回し」と批判されますが、救急車も必死なのですね。救急車の車内にはカーナビゲーションの他にも全ての救急病院の情報が表示できる通信端末があります。近くで当該診療科を受け入れている救急病院を探して電話をしまくります。ですから、歌舞伎町で倒れたからといって、最寄りのQ病院に運ばれるとは限らないのです。
 Q病院に搬送されても容体のよっては受け入れできない場合があります。有り体にいえば、当直医師の技量という問題もあります。搬送前に救急車にはその旨を伝えて受け入れますが、対応できない時には近隣の大学病院などに転送します。病院の救急搬送口で救急車が搬送先を探すという光景が見られるわけです。
 冬のある夜には歌舞伎町の居酒屋で開かれた新入生歓迎コンパで、テーブルの上の鍋をひっくり返した熱傷患者が搬送されました。付き添いの女の子たちは「ゴメンね、ゴメンね」と泣いてます。冬でも短いスカートをはく最近の女の子、その上に鍋のスープがモロにひっくり返ったそうです。両足の太腿から膝の下までナイロンのストッキングが溶けてベッタリと張り付いています。救急隊員は「レベルは2度ちょっと」といいますが、「溶けたストッキングが熱傷の皮膚に付いているので剥がせない」ほど。看護師は「ヤケドとしては重傷ですよ。いずれ植皮ですね」。
 相当に痛いはずですが、当の熱傷患者は泣くことも忘れて呆然自失。周りの女の子は阿鼻叫喚。男子学生は右往左往。楽しいはずの歓迎コンパ、火傷した女子学生だけでなく救急処置室で泣きじゃくっていた女の子たちにも忘れられない夜になったはずです。Q病院では応急処置をして近隣の大学病院に搬送されましたが、その後の植皮術は成功したのか。成功しても再びミニスカートで街を歩けるのだろうか。患者が若いだけに「その後」が気になる一夜でした。

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日乗俳句


春を販(ひさ)ぐオンナたち

 日本最大の繁華街K町にはさまざまな職業の人たちがいます。そして、さまざまな職業の人たちが、日常生活や仕事のストレスを発散しに来ます。K町で働く人たちは日本人だけでなく韓国人、中国人、インドネシアやインド人、アフリカ系の人たちも定着してきました。K町に遊びに来る客としても世界各国とりどりです。海外諸国に比べれば治安が良いとはいえ、S区役所裏あたりの街頭の少ない路地で、身体の大きなアフリカ系の客引きに遭遇するとちょっとビビります。そして、K町には男性ばかりでなく、歓楽街の常としてさまざまな国の女性がいます。ここ10年で増えてきたのがロシア系の女性でしょうか。(個人的には韓国系、ロシア系はキレイです)
 K町の女性たちは飲食店で働くケースがほとんどですが、女性にしかできない職業、そうです、売春婦を生業にする人も多くいます。彼女たちは定期的に同じポイントで客を引きます。もちろん、「警察24時!」といったテレビでもよく紹介されるK町交番の周りでも、遠慮はしません。同業者同士が競合しないように営業エリア(といっても10メートル程度のもの)を分けているので、彼女たちは一仕事終えると、また同じポイントに戻ってきます。馴染みの客がいるからです。警察の生活安全課も毎日、売春行為の取り締まりをしているわけではないので、旧コマ劇場からK町交番の裏手にあるテナントビルHビルの周辺は売春婦の営業エリアとして、その道の愛好家には知られています。
 管理売春ですから、暴力団の資金源になっているわけですが、若年化はこの職業にも進んでいて、中学生と見まごうばかりの売春婦までいるんです。まあ、彼女たちを職業としての売春婦というべきか、ちょっと疑問ですが、アルバイト感覚の小遣い稼ぎ。地回りのお兄さんに話を付けて3千円ほどのショバ代を払って「営業」します。とくに夏休みの期間はセーラー服をどこかで着替えてきたような「女の子」が増えます。
 Q病院にも患者として来院する売春婦もいれば、夜の仕事の疲れでひと休みの図々しいヤカラも。こういう場合は警備のスタッフが丁重にお引き取りいただきます。患者として来院する彼女たち、婦人科で来ることはほとんどありません。多くは胃腸系の病気です。睡眠不足、不規則な食事で最初に胃がやられます。これはホストにも共通していて、間違いなく慢性化します。婦人科系は周辺の性病専門クリニックなどに行くので、Q病院には来ないというわけです。
 最後に、老婆心ながらのご忠告です。K町の売春婦の90%以上は性病持ちです。接触を持ったら罹患率はほぼ100%です。それともう一つ。売春婦ならぬ売春夫もいることです。そう、女性ばかりではないのです。容姿でも、話をしていてもわかりません。わかるのは「その時」です。でも、それでもわからなかった、という幸せな人もいるようで、何ともトホホな話です。あ、K町の売春婦の最高年齢は70代、今でも「固定客」がいるからスゴイです。
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日乗俳句


カンチョウしろ〜ッ

 カンチョウ、そう浣腸です。お尻から注入して排泄、排便を促進するものです。SMクラブではマニアの嗜好ですが、病院ではあくまでも医療行為の一環。浣腸といえば誰でも知っているのがイチジク浣腸ですよね。容器の形状が無花果(いちじく)に似ているのでイチジク浣腸となったのでしょう。医療行為としての浣腸は、便やガスの排泄促進や大腸内の洗浄などを目的に行なわれます。イチジク浣腸はディスポーザブル浣腸、注射器型によるものはシリンジ浣腸といわれています。
 一時期、日本でもオーガニックコーヒーを使用するコーヒー浣腸(コーヒーエネマ)が健康にいいといわれて流行りましたが、どうもコレは眉唾のようです。海外セレブなどでもてはやされましたが、健康どころか危険な行為として注意喚起が行なわれています。
 患者に浣腸をするのは看護師の仕事です。浣腸の仕方にも個々の技量によってレベルに開きがあります。尿道カテーテルにも上手下手があって、上手な看護師の場合はそれほど痛みを感じませんが、下手な看護師では飛び上がるほどの激痛が走るそうです。
 浣腸をした後は便意が襲ってきます。ギリギリまでガマンしてから排泄するように指導するのですが、患者にとってみれば「ギリギリ」というには不安ですよね。なかには処置室からトイレまでガマンできずに点々と排泄の痕跡を残す患者も。看護師は「あらあら、もう少しガマンしてっていったでしょう」。患者も負けずに「アンタの浣腸の仕方が下手なんだろ!」。再び試みるも、また同じ。「アンタじゃなくて、○○さん呼んできてくれ。○○さんは浣腸上手いぞ」と、浣腸の看護師をご指名。
 夜間救急外来に「もう3週間も出てない」という40代の男性患者が来た。「ハラがパンパンだ」。要するに便秘である。まあ、3週間も排便が無いことがあり得るのかは別にして、たしかに顔色が悪い。診察台に上がるまでもなく問診で医者は「じゃあ、浣腸しておきましょうか」。看護師が浣腸を用意、「はい、横になって下さい。下着外してね」。「コレでイイかい」。患者の「うう〜うッ」の声に続いて、「しばらくガマンして下さいね」。そして20分。トイレで出すものを出して、晴ればれとした顔でお帰りだ。
 ところが、この時の浣腸がよほど気持ちがよかったのか、毎週通うようになった。それも夜間の救急外来だ。夜間救急外来を担当するのは手術室の看護師がシフト輪番となるから、同じ看護師に巡り会う確率は高い。40代男性便秘患者は1週間ぶりに訪れて「3週間も出ていない」と、どうにも計算の合わないのだが、「はいはい、浣腸しますよ」といわれると表情が緩む。何のことはない、浣腸マニアらしい。最近は男性看護師も当直しているが、夜中の12時過ぎ、手の空いている看護師が男性しかいなかった時には、「ああ、今日は治った」と慌てて退散。こんなコトが数回繰り返された。
 しかし、病院としてはこの患者が単なる浣腸マニアと判断、「これから浣腸は自分でして下さい」と診療を拒否。怒り狂った患者、救急外来の入り口で大声で「カンチョウしろ〜ッ」と叫ぶは、ドアを叩き、インタフォンを壊すわ、あげくに警備のスタッフに殴りかかって、S警察に逮捕連行されてしまった。いやはや、浣腸恐るべしである。
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日乗俳句


おシモをきれいに

 初めに断わっておきますが、シモの話で申し訳ありません。病院には医療関係者のほかに、病院を内外を清掃するスタッフや警備関係のスタッフが数多くいます。院内を定期的に巡回している警備員は、時に思わぬ所で思わぬモノを発見します。トイレのドアから大便がボト、ボトと落ちていることもあります。高齢の患者さんの“落としモノ”です。こうした場合は清掃スタッフに連絡してキレイにしてもらいます。病院なので便や嘔吐物、血液の汚れは除菌してアルコール消毒します。
 その清掃スタッフだったXさんは堂々たる体躯ながら、昔は「おネエさん」として店に出ていた。時には着物姿でお座敷にも声がかかったというから、文字どおりの男芸者(?)。口癖は「昔はおネエさんたちから、おシモはいつでも使えるようにキレイにしておくようにうるさく言われたわ」。入ったばかりの若い清掃スタッフが高い脚立に乗って天井の蛍光灯を拭いていると「お兄さん、いいカラダしてるわねェ」。下から見上げるXさんの顔はウットリ。Xさんの来歴を知らない新人スタッフは「そうすか。高校まで野球やってたンすよ」。彼が魔の手にかかるのも時間の問題。
 Xさん、勝手に手が動いてしまうのか、仲間のお尻を撫でたり、局部を握ったり。ついにはエスカレートして警備スタッフや看護師(男性)も被害に。そのたびに清掃のチーフが総務に呼ばれて厳重注意を受けるのですが、ついにはトイレの中で患者さんの局部を握ってしまったからタイヘン。これはさすがに厳重注意ではコトは収まらずに病院には出入り禁止に。清掃チーフ曰く「前の職場でもクセが出てこっち(病院)に来たのにね。次はオンナしかいない現場にしないとなあ」。
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日乗俳句


憐れホスト、レッドブルだ

 さすがに最近ではホストの凋落も極まったような感じです。一時はトップホストの仕事ぶりがテレビでも取り上げられ、東京でホストにさえなれば誰でもが優雅な生活ができるように、そんな甘い夢を喧伝しました。日本一の繁華街K町のホストの多くは“制服”である黒服を着ています。まるでお仕着せのような黒い(あるいはダークグレイ)スーツに身を包んでいますが、着古したお下がりのスーツはどこもツルツルで、おきまりのようにズボンの裾はすり切れています。ですから、履いている靴がクリームで磨き上げられてピカピカなんてことは、間違ってもありません。
 K町、いえ東京のホストクラブで自前で稼げて生活できるのは1割にも満たないでしょう。つまり30人のホストがいる店であれば、ほんの2、3人のホストが客を持ち、あるいはスポンサーが付いているだけです。そのほか9割のホストたちは、いわゆるヘルプです。正直、お金にはなりませんから、大変です。食べるものといえば、わずかな休憩時間にビルの非常階段で掻き込むカップ麺、コンビニ弁当、そしてレッドブル。レッドブルはオーストリア生まれのエナジードリンクとして世界的に有名です。モータースポーツのスポンサーにもなっていて、知名度は抜群ですが、日本で最初にレッドブルに目を付けたのはホストたちだと思います。彼らは食べたカップ麺やコンビニ弁当の脇には、必ずといっていいほどレッドブルの空き缶があるんです。ですから、コンビニでレッドブルを見るたびに、ビルの影でひっそりとカップ麺を掻き込むホストの哀れな姿が目に浮かびます。
 ホストになるのは簡単です。女性の好みもさまざまですから、容姿もかなりの許容範囲があります。寮があるので、ホストになれば住むところには困りません。が、です。もちろん、タダではありません。言い方を変えると、寮とは、つまりタコ部屋です。ホストはお酒を飲むのが仕事です。そう、健康管理をちゃんとしているトップホストはほとんど酒を飲みませんから、飲むのはヘルプのホストたち。シャンペンのイッキ飲みです。身体にいいわけがありません。1年も続ければ内臓はボロボロ、病院通いが当たり前になります。ま、その病院の看護師がホスト通いということもあるので、実は持ちつ持たれつ、って?
 しかし、看護師は休めますが、ホストは休めません。診断書のない欠勤は1日当たり最低でも3万円の罰金。病院で診断書を書いてもらうにも、タダではありません。偽ヴィトンの財布に千円札の数枚(あるいは入っていない)のホストに、そんなお金はありません。仕事をしても金にはならないけど、休むに休めないというドツボにはまります。救急外来に担ぎ込まれて、ドクターに「あんた、こんなコトしてたら死ぬよ」といわれて、寂しく「ホントっすか」という彼らの眼は虚ろです。それでも、彼らがその世界を抜け出すには、非合法な覚悟も必要な、暗い世界が待ってます。
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日乗俳句


浴衣に赤いハイヒール

 新しく社会人になった人や、上京して東京の街にも少し慣れた学生さんたちが、日本最大の繁華街・K町の夜に繰り出します。早慶戦の夜にはかつては映画館に囲まれたコマ劇場前の広場に早稲田の学生の歓声が響く光景は、ここに噴水があった時代と変わりません。
 春の歓送迎会の時期には「急性アルコール中毒」の患者がQ病院にも毎晩運び込まれます。ただし、本当の急性アルコール中毒の患者はごく稀で、大半は「単なる飲み過ぎの泥酔患者」で足腰が立たないだけ。病棟に運んでも、点滴をして寝かせるだけです。アルコールがオシッコで出てしまえば症状は改善されます。社会人は多少ともお酒に鍛えられていますが、学生の歓迎コンパで飲まされた1年生は悲惨です。死亡者まで出て新聞紙上を騒がせたイッキ飲みは減っているようですが、全体に酒には弱くなっているようで、「酎ハイ2杯で」倒れて運ばれる学生も。運び込まれた学生に付き添ってくるのは、多くはサークルの先輩女子学生です。Q病院ではこういう患者の場合は付き添いが原則です。点滴をしていることと、それによってオシッコが近くなるので、ベッドから降りる際に転落したりしないように、また頭が朦朧として突然に暴れ出す患者もいるからです。手のつけられない患者は病棟には上げずに救急外来の処置室に寝かせて点滴、付き添ってもらいます。
 救急車内で嘔吐して着ているものは汚物まみれ、汚れたズボンまで脱がされて、恥ずかしい姿を全開です。もっとも、たまに男子だけでなく女子学生がこういう状態のこともあります。男女とも泥酔状態でお漏らしも多いですね。さすがに、これは救急隊員ではなく、病院についてから看護師が脱がしますが…。嘔吐したりして汚れた着衣はビニールに入れて本人に返しますが、素っ裸やパンツ一つで病室に入れるわけにいかないので、救急外来にはパジャマ、浴衣の自動販売機があります。SML、一応は男女別にピンク、ブルーなど取りそろえていて、ちゃんと領収書付きなので後日、本人に請求する時に「ハイ、これパジャマ代ね」と。
 学生の場合、成人していない年齢(つまり本来は飲酒ができない)だと、親に連絡をして引き取りを要請します。地方の場合には東京周辺に在住の親族に引き取りに来てもらいます。深夜に電話で起こされて長野県から「車を飛ばして迎えに来た」両親もいました。不思議なことに、こういう電話をする時、女子学生はすごく手際がいいんです。サークルのマネージャかなにかやってるのでしょうか。そこにいくと、男子学生は「なぜ、病院から電話をしているか」の説明からしどろもどろ。見かねた看護師が「お電話変わりました。こちらK町Q病院です…」となることも。
 で、入院代なのですが、これがベラボウに高いのです。冷静に考えると当然の料金なのですが、翌朝に会計して「ええッ、なんで!」という人がほとんどです。急性アルコール(急アル)患者は大きな声を出したり、暴れたりする可能性があるので相部屋というわけにはいかず、全て個室になります。そして夜中の12時前に入院の手続きをすると翌朝までの会計は「2日分」となるんです。12時過ぎの入院だと1日分ですから、この数分が微妙です。ですから救急外来では入院時間を「11時48分入院です」と、病棟と相互に確認します。さらにこの手の泥酔患者は、病気ではないので保険がききません。
 というわけで、12時前に入院すると最低でも3万円は覚悟が必要です。5千円のコンパ代が大変に高いものになります。万が一にでも入院となったら、「日付が変わってからにして」とお願いしてみましょう。
 朝から青空の気持ちよい風のなか、浴衣に赤いハイヒールで汚れ物を入れたビニール袋(これがまた透明なので中が丸見え)を持ってタクシーに乗る女性は見るからに憐れです。おまけに、髪の毛に拭いきれなかった嘔吐物のカスなんか付いてると、哀しさが増します。
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薬剤師さん、別荘はいかが

 「コメディカル」という言葉を知ってますか。デジタル大辞泉にはコ‐メディカル(co-medical):医師と協同して医療を行なう、検査技師・放射線技師・薬剤師・理学療法士・栄養士などの病院職員―とあります。K町の病院の薬剤科や栄養科では正規職員よりもパートさんの比率が高いのが現実です。看護師もパート職員を積極的に活用、子育てを終わってパートで勤務というパターンですね。
 院内薬局の薬剤師にもパート職員が多いのですが、名前から受ける印象とは違って、思いの他のお安い賃金で働いているようです。ファッションもお洒落ですし、持っているバッグなどもブランド品です。まあ、これは看護師も同じで、勤務シフトの関係で余計なお金を使う時間がないのでしょう。ストレス解消のための飲食代を除いては…。ちなみに、看護師の勤務シフトは通常は3交替なのですが、若い人たちを中心に2交代制を望む声も強くなっています。つまり、日勤と夜勤だけ、2交替の方が休みが細切れにならず、「予定の立てやすい」シフトになるからです。
 さて、薬剤師ですが、若いパート薬剤新たちは夜間当直勤務をすればけっこうな残業代がつきますが、パート薬剤師の日勤だけだと「その辺のキャバ嬢の方がよっぽど給料もらってる」そうです。そんな薬剤科の先生には、たまに別荘や高級マンションの勧誘電話があるのですが、「まあ、薬剤師ってけっこうな高給取りって思われてるんでしょうねえ」と苦笑い。こうした勧誘電話、けっして「別荘のご案内です」とはかかってきません、医薬品メーカーなどを語るケースが多いのですが、「リレンザの件でご連絡が…」など、メーカーと薬の関係などもよく知っているんですね。案外多いのが薬局からの問い合わせを騙るもの。「こちらは埼玉県の○○薬局なんですが。そちらの処方箋番号012345について…」と。
 人を騙すのもアノ手コノ手、いろいろお勉強が必要なようです。
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ホストクラブのトイレで

 夜間救急では睡眠薬やリストカットなど、自殺未遂の患者が運ばれるケースもあります。リストカットはかなりの出血になります。覚悟して手首を切った本人が、出血量の多さに驚いて正気に戻り慌てて119番。もっとも、病院に運ばれてくるのは“助かった”人たちですから、“本気”ではなかった人も多いのです。なかにはリストカットの傷口がキレイな縞模様になっているような女性もいます。
 K町にはホストクラブが多いので、ホストクラブのトイレで手首を切る女性もいます。「トイレが長いとイヤな予感がする」というホストもいるくらいで、「ホンキで思い詰める客が一番イヤ」。ホストにとっては女性とお付き合いするのは、いかにお金を使わせるかの仕事であって、いちいち本気で付き合っていたら身体がいくつあっても足りません。といっても、こういう客が付くのはほんの一部のホストで、その他多くのホストの生活は惨めです。(この話はまた後日)
 で、トイレで手首を切られたホストクラブは「いい迷惑」で、救急車を呼ばすずに、多くは当のホストが患者(客)を背負って、あるいは仲間と抱え込んで病院に運びます。救急車を呼ぶと、一緒に警察が病院に駆けつけるからです。手首を切ったのが自殺なのか、事故、事件なのかわからないので、救急隊員は警察にも連絡、搬送病院を知らせます。まあ、そのまま亡くなってしまった場合は最初から警察の出番です。
 自殺とは違いますが、救急車で搬送しても、病院到着時に医師が診察する段階で死亡している場合、これを病院では「着死」といいます。この「着死」の場合には医師による死亡を確認だけでなく、必ず警察の鑑識が病院で検視を行ないます。ほとんどのケースではそこで「病死」と判断されますが、稀に司法解剖に回されることがあります。なかには、腹上死(あるいは腹下死)の例も。(これに関してはまた後日)
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性別不明の方々

 K町界隈には性別が良くわからない方たちがいます。性同一性障害のように日常生活においても深刻な影響があるケースもありますが、K町界隈の方々は性別を仕事にしている場合がほとんどです。昔から2丁目には正統派のゲイバーの類が多くありますが、K町に多いのはニューハーフ系のお店です。なかでも老舗のニューハーフのお店は夕方になると営業前の一仕事があります。揃いの法被を着て中心街の広場のゴミ拾いをするんです。もちろん、法被の下は思いおもいのお仕事用の衣装です。
 病院にもゲイ、オカマ、ホモ、ニューハーフとさまざまな方たちが来院します。患者さんであったり、面会であったり、用件はいろいろですが、ニューハーフさんの美しさは、文字どおりホンモノの女性顔負け、頭のてっぺんから爪先まで見入ってしまい、「ええッ」とビックリすることがあります。初診受付の女性が、書類に書かれた氏名と目の前の患者さんを見比べてポカンと口を開けることも。
 夜間の救急窓口に、60代に手の届きそうなスーツ姿の男性と和服を小粋に着こなした女性が来院。小洒落たスナックのママさんに常連客かパトロンという感じ。男性の症状は発熱と悪寒で、「風邪の症状ですね。保険証出して、窓口で受付して下さい」と看護師。
 受付で受診のカードに記入、保険証と一緒に提出。ややあって「すみません、この保険証、違ってますよね。ご本人のお願いします」と受付のスタッフ。男性を診ていた看護師も「?」と受付へ。「これって、ご本人?」。すると和服の女性が苦笑いしながら看護師の耳元に。「ええ、私が男で、こちら(男性)は女性なの。ややこしくてゴメンなさいね」。
 女性が男装して男になりきる場合、普通は「おなべ」といいますが、なんだか複雑。つまり、男が女の格好をして、男の格好をした女と“男女関係”になる。たまにいるんですね。てっきり男性だと思って「はい、ちょっと胸見せて下さい」といわれて、胸にキッチリと巻いたサラシを解く人が。ドクターは思わずカルテを見直して、看護師を見上げると、当の看護師は「ねッ、スゴイでしょ〜」のウィンク。
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お持ち帰りもあります

 春になると新任のドクターやナースの姿を見かけます。どの職場でもあるように、病院でも歓送迎会があります。歓送迎会は診療科別にドクターやナース、コメディカルのメンバーで行なわれますが、そこはK町のこと、セッティングには困りません。
 ただ、この種の飲み会はややもすれば新任メンバーを歓迎したり、新しい職場に転任することをお祝いしたり、そんなことにはなりません。多くの場合、ナースがドクターに日頃の不満や不平、なかには募った思いを告白するといった飲み会になります。病院は一般の職場と違って交替勤務なので全員が揃っての歓送迎会にはなりません。診療科によっては2回も歓送迎会やることになります。
 過日、某診療科の新任の看護師長の歓迎会がありました。三々五々、エレベーターホールで待ち合わせて、職員通用口をちょっとめかし込んだメンバーが出て行きます。彼女たち、彼たちが安心して飲めるのは、宿泊可能な病院があるからです。2次会は当たり前、寮生などは3、4次会で朝帰りも日常茶飯。
 で、看護師長の歓迎会の当夜。飲みに出た若いナースが救急外来のインタフォンをピンポ〜ン。「すみません、ストレッチャー出して下さい」。なんと、病院から歩いて数分の歓迎会の会場で当の看護師長が飲み過ぎて倒れてしまったと。救急車の適正使用を呼びかけている手前、救急車も呼べず、かといってタクシーじゃあ運転手に怒鳴られそうで、仕方なく救急外来のストレッチャーで運ぼうというわけ。
 とんだことになった看護師長、救急外来経由で仮眠室に直行、さすがに翌朝は神妙な顔でお帰りになりました、着任早々に記憶に残る看護師長となりました。
 といって、こんなのはカワイイ話で、ドクターのナースお持ち帰りがあれば、逆にナースが若いドクターのお持ち帰りもしばしば。病院には、人間の欲望が渦巻きます。
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ナースウェアも刺激的

 病院にはドクター、ナースの他にもレントゲン技師、臨床検査技師、薬剤師、理学療法士、栄養士などコメディカルといわれる医療に直接関わるスタッフがいます。なかでも、患者と直接接するのがドクター、ナース。と、その前に初診や再診の受付カウンター。その前に、ちょっと大きな病院だと「総合案内」もあります。ここはどの診療科かわからない時などに症状を説明すると、適切な診療科を案内してくれます。
 病院は、病気を治すための施設ですから院内に明るく爽やかな雰囲気が溢れているわけではありません。そんな病院のなかで、患者にとって花ともいえる存在がナース、看護師さんですね。最近の看護師は衛生上の問題もあってナースキャップをしていない病院も多くなっています。K町Q病院ではナースウェアも個人の好きなデザインやカラーを選べるので、院内は白、クリーム、ピンク、ブルー系など色とりどり。動きやすくストレッチ性のある素材で、ルコックやアシックス、ミズノなどのスポーツメーカーのウェアが多くなっています。
 ドクター、ナースのウェアはお仕着せではなく、総務がシーズンごとのウェアのサンプルを展示してその中から自分の好きなデザイン、サイズを選びます。パンツありスカートあり、さらに自らミニスカ風にするナースも。若い入院患者などにはかなり刺激的ですよね。あえて下着のラインをクッキリと際立たせるナースウェアでは、患者ばかりでなく時にドクターもクラクラしてしまいます。
 常勤だけでも60名以上のドクター、パートを入れれば200名を超えるナース。当直も含めて原則3交替勤務。ナースは外来、入院フロアともに受け持つ診療科が決まっていますから、ドクターとは家族以上に顔を合わせている時間が長いともいえます。そこには協力して患者の病を治すという使命、絆があります。そして、お互いにかなりのハードスケジュール。そうなれば、どこかにちょっとした安らぎを求めたい、心身ともに解放したい。風呂もシャワーも仮眠室も完備していれば、安らぎはどこででも求められます。
 ナースは酒が強い、というのはほぼ真実です。ナースは男に弱い、というのもある面では真実です。さて、その実態は……。
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生活保護と医療+入院

 生活保護受給者数が215万人を越えて過去最高となっています。国の負担も自治体の負担もタイヘンなことになっています。生活保護を受けていながらパチンコをする、ギャンブルなんてとんでもないと問題になっていますが、これは生活保護費の中からの遊興費ですから、まあオオメにみましょう。
 生活保護を受けていると、酒、タバコなどのほか消費税程度しか税負担がありません。生活保護では「生活」「住宅」「教育」の扶助が知られていますが、さらに「医療」「介護」「出産」「生業」「葬祭」などがあります。
 大きいのは「医療」扶助です。生活保護受給者は国民健康保険料を納付していません。それいて医療費は全面的にタダです。病院に通院する交通費(タクシー代)も負担されます。
 東京・K町のQ病院には生活保護受給者が多く入院しています。彼らの多くは3ヶ月の入院生活を謳歌します。冷暖房完備、風呂には入れるし、高層階からの眺めもいい。もちろん三食付き。時には美人の看護師と楽しい話もできる。胃炎で入院しても、次々に新しい病名が付いて快適な入院生活が最大3ヶ月は続く。1年のうち半分は入院している猛者もいる。
 病院は生活保護の入院患者が増えても、痛くも痒くもない。受診が終わって「今日、お金無いんだよね」。「じゃあ、これ書いて」の書類にウソの住所を書いていくヤカラも多く未収金が増える。ところが生活保護患者の場合は、自治体が医療費を負担するので取りっぱぐれがない。オマケにベッド(病床)が埋まる。
 入院費の自費負担者はすぐに退院したがるが、生活保護者は目一杯の入院生活を楽しむことになる。まあ、これを読んでいる人には余計なお世話ですが、生活困窮者の場合は生活保護を受けていなくても区役所、市役所の福祉担当課で「医療券」をもらえば、大手を振って医療機関で受診できます。これは生活拠点が無くても、つまり住所不定でももらえます。
 また、生活保護受給のためには「定まった住所」が必要といわれていますが、法律的には定まった住所が無くても受給は可能です。「もしも」の時の参考に。
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日乗俳句


「欠損」は「ローサイ」ですか?

 東京最大の繁華街K町。この土地のQ病院では時に「欠損」の患者さんが飛び込みます。ある患者さんは夜間に救急で、ある時には白昼に一般受診のカウンターに。「欠損」とは小指を切断した患者さんで、K町という場所柄もあり年に数人の「欠損」患者さんがあります。
 「欠損」の処理は切断されて突き出た骨を包むように皮膚を縫うのですが、そのまま縫うと、骨付きソーセージを焼いた時のように、骨が突き破るように皮膚を圧迫します。で、骨を少し削ってから縫うと、ちょうどいい塩梅になるのです。
 切断した段階で相当に痛いはずですが、感覚が麻痺しているのか、ほとんど動揺もせずに落ち着いた患者さんもいれば、若いツレも含めて慌てふためいて飛び込んでくる患者さんもいて、いろいろです。素面で切ればいいものを、酒なんか飲んで切ってしまうと、タオルから滴るほどの鮮血で、切った本人もその血の量と色に顔面は蒼白。
 ある夜、そこそこのアニキと思しき「欠損」さんがやってきて、「これ、くっつかないか」。そう、子分が持っていたのが氷で冷やした小指。あれッ、落とした小指って、詫び入れる相手に渡すんじゃないの? 何年か前にS警察が元ヤクザさんの部屋をガサ入れしたら、神棚の後ろから干涸らびた小指が何本も出てきたという記事もありましたが、どーいうこと?
 患者さんも火急のことで慌ててるんでしょうけど、受付の病院事務の女性が「欠損」患者さんのツレに「労災ですか?」と聞いたら、「アニキ、ローサイって?」。ま、どっちもどっちのK町のQ病院でした。
 ちなみに、切断した指をくっつける(再接合する)には整形外科でもかなりの技術を要します。通常は不可能と考えた方がいいです。また、間違ってもアルコールなどに漬けて病院に持ち込むのは止めましょう。いくら腕のいいドクターがいても、標本にしかなりません。
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日乗俳句
posted by funnymoon at 15:39| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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